金曜日。

珍しく、家の用事で真っ直ぐ帰るという春菜と別れ、久しぶりに一人で帰った。

お稽古を終え、夕食とお風呂を済ませてお姉ちゃんの前に座ると、遺影を見ながら、心で話しかける。



――お姉ちゃん、好きな人できたよ。
――お姉ちゃんも好きな人いたの?
――お姉ちゃんの言葉、まだ伝えてないよ。いつか、伝えられるよう、逢わせてよね。


線香が消えたことを確認して、リビングに戻ると、母がいた。


「あ、お帰りなさい」

「ただいま。
唯歌と喋ってたの?」


いつからいたのか、 見られてた?


「うん、女子トークよ」


と笑うと、楽しそうね、と言いながら、母もお姉ちゃんの前に座って線香に火をつけた。


食堂で、水を入れたコップを持ってリビングに来ると、母がお姉ちゃんの前でボンヤリしていた。


「お母様?」

呟くように言うと、聞こえていたようで、私を振り返った。


その顔が以前よりさらに痩せていることに気が付いた。


「また、出張なの。明日の朝から。

来週中には帰って来れるから。

…ごめんね」


ため息混じりに言う母が、私ではなく、姉に謝っているように思えた。


「学校楽しい?

バタバタしてて、歌織ちゃんの近況も分からないわ。

こないだの日舞の発表会はほんとに頑張ったわね。ビックリしたわ」


「学校は楽しいよ。
毎日好きなレッスンをする時間もあるし、友達もできたよ。
明日は、その友達とバーベキュー行ってくるの。
桜輪学園とは、雰囲気違うけどね」


と笑顔で喋ると


「良かった。わたしがお父様と出会った時、高校生だったのよ。
私も高校時代楽しかったから、あなたも楽しいことたくさん見つけてね。

私はそろそろお風呂いただくわ」


席をたった母の後ろ姿を無言で見送る。
久しぶりに母と二人で喋った。
母の思いを垣間見た気がする。


きっと寂しいよね、辛いよね。

ベッドに入って、眠りについた。