自転車を片付けて家に入るとすぐに祖母の家に行き、衣装に着替えて舞う。


足の角度や手の動き首を傾げる角度。
着物と鬘を着けて動きを確かめる。


上手くいくところはそれでいいが、名取としてのプライドとプレッシャーもある。


妥協はしない。


真剣に取り組むなかで、時間が経つことを忘れる。


「その角度!忘れるな!」

「違う!」


師匠である祖母の厳しい言葉が飛ぶなか、最後に一通り舞う。

それを録画して映像を確認して、今日は終わった。



優さんに買ってもらった水を飲みながら、着物をといて、浴衣に着替えて歩いて家に戻る。

隣の家なので、距離はない。




夕食を食べて、入浴後、和室でお姉ちゃんの仏壇の前に足を崩して座り、心で話しかける。

――もうすぐ発表会だよ。
――好きな人ができたんだよ。

もっと喋りたかった、相談したかったよ。

自室に向かっているときに、スマホで優さんからラインが来てることに気付いた。



“連絡先090-####-####”
“またな”



それだけ?
つい笑ってしまう。


私も連絡先と、もう寝ます。


というメッセージを入れて、ベッドに横になり、そのまま眠った。