その日も、いつも通り学校へ行き、夕方は日本舞踊のお稽古のため、長い髪をまとめて、浴衣に着替え、となりの祖母の踊り場で過ごした。

お稽古のあと、祖母にも進学のことで両親と話したことを言った。

祖母は私を見つめ、ちょっと呆れたように言った。

「私は、日本舞踊の家元だけど、昔から日本舞踊が好きでねぇ。
父が家元だったからではなくて、私自身が認めてもらって継ぐことが出来たわ。
この世界は世襲制ではないのよ。

だから、歌織が、継がなければいけない訳じゃないよ。
義徳(ヨシノリ)もいる。

歩月(ホヅキ)、あんたの母は向いてなかったから、残念とも思ったことがあったけど、強制するつもりもなかったし、あの子にとって好きなことを見つけて進学して、今は幸せだから、それでよかった。

歌織が日舞を好きで、名取をとってくれて嬉しいけど、進学は自由だし継がなければならないこともないのよ」

話ながら段々と笑顔になっていた祖母。
娘の婿にあたる父に気を遣ってるのかな、とふと思った。

「おばあちゃんの家元を継ぐためにやってるわけじゃないの。

お父様の方のおじいさまは、サイタグループの代表だし、お父様もお母様もそこで働いていることはわかってる。

でも、私が、なぜかわからないけど、日本舞踊も琴もピアノも続けたいし、実はまだまだやってみたい楽器もあるの。

でもね、昨日、お父様が女の子ができたときに、桜輪学園を卒業させたかった、って聞いて、外部受験は親不孝なのかなって思ったけど、やっぱり凌凛館に行きたいし、日本舞踊も続けたいの。

おばあちゃん、これからもよろしくお願いします」

私の言葉ににっこり笑って

「歌織は筋がいいからね。
どこの高校でも、これからも何もかわらないよ。

で、凌凛館受験して……


失敗したら、、、ねぇ」

アハハと、豪快に、笑う祖母に、げ、と舌を出すしかなかった。


家に帰り、軽く夕食をとって、琴とピアノの練習をした。

姉はまだ帰ってないようだった。


忙しいけど。

家族みんなそれぞれ仕事や用事ややりたいことがあり、それぞれ理解し合い、それぞれ信頼しあっているし、何でも分かり合えていると、思っていた。