そして、迎えた受験当日。
入試には、箏の演奏を選んでいたので、朝から箏を車に運び準備していた。
凌凛館高校には母が付き添ってくれることになっている。
朝食を食べながら、父が
「落ち着いて、な。
忘れ物はしないようにな」
と心配そうである。
「じゃ、行ってくるから」
いってらっしゃい、
とぼそぼそ言いながら、目で父を見送った。
同じように父を見送った姉の唯歌が
「お父様も心配なのね。
まあ、おきばりやす~」
と、変な京都弁でからかい気味に話しかけてきた。
「緊張するのかなあ」
とため息混じりで言うと、
「ピアノは指定曲があるんでしよ?
そこはちゃんと弾かなきゃだけど。
箏はないんだから、難しそうに弾いたら?」
と茶目っ気タップリである。
なるほど~
と見返すと「なんとかなるよ」
と微笑んでいた。
「じゃ、私も行くから」
と席を立って学校へと行ってしまう。
「そろそろ行きましょうか」
母の声に、はーい、と返事をして玄関に向かい、車で出発した。
凌凛館高校に着くと、様々な楽器や、自分で描いたであろう絵画や立体作品を下ろしている人たちがいた。
「なんか、受験生多くない?」
というと、
「結構、絵画持ってくる人が多いのね」
と返事ではなく感想をもらす母に適当に返事をした。
芸術科は音楽、美術造形、書道、デザインを専攻する人が受験する。
しかも、これから学ぶのではなく、今まである程度経験のある人を募集している。
デザインや絵画は発表こそしてなくても、一人で描いたもの、つまり自分の作品を持参して評価をしてもらうことが、入試なのである。
――ここに合格したら、この中で友達できるのかなあ?
ふとを見回すと、品のある人や、ヤンチャそうな、というか、あか抜けた感じの人もいる。
『作品を受付された方はこちらへ。
楽器をお持ちの方は直接玄関にお越しください。
受験生の付き添いの方はお待ちいただく食堂の方にご案内します……』
と放送がかかり
「じゃ、がんばってね」
と、笑顔の母に見送られた。