時は過ぎ、お正月を迎えた。
家族で初詣に行ったり、本家や熊野家に挨拶に行きゆっくりする間もなく、挨拶に来られる人の応対に追われた。
音楽専攻の私の入試は学力試験とピアノと自分の専門にしたい楽器演奏である。
箏は、受験と1月にある演奏会の曲目を、一緒にすることにして、空いた時間に家の音楽室に籠っていた。
長期出張だったらしい兄も帰って来ていたが、以前のように一緒に出掛けることもなく、リビングで一緒になると
私の受験のことを聞いて驚いたことや、まだ出張が続くと、ぼやきを聞いたり、私の学校のことをしゃべるくらいだった。
兄が出張先に戻る前日、リビングで一人でお茶を飲んでいた私に兄が
「唯歌は、男でもいるのか?」
と聞いてきた。
そんなことを考えたこともない私は自分に似た兄の顔を見ながら
「えー!聞いてないよ!
なんで?お兄ちゃん聞いてみてよ!」
と、つい声が大きくなる。
「いや、そんな気がしただけ。
ま、いてもおかしくないし、アイツが言わないことは俺からは聞かない主義だから、歌織も言うなよ」
と釘をさされた。
姉に彼氏がいてもおかしくないけど、そんなこと思ったこともなかった私は、なぜ兄がそう思ったか、私にはよくわからなかったし、兄も言わなかった。
「ま、お前も受験だろ?
頑張れよ」
と、封筒を差し出された。
「あ、お年玉?ありがとう!」
やった、と思いながら受け取り、その後はたわいもない話をして
――おやすみ
とそれぞれ自室に戻った。