帰り道、次の演奏会で着る着物を選びにいき、母と夕食をレストランで食べた。
母は
「私も日本舞踊を習っていたんだけどね、そんなにやる気なくて、自分の興味のあることを学ぶ大学に進学させてもらったわ。
あなたたちを生んで、忙しくても今の仕事も生活も楽しいのよ。
おばあ様は何も言わず、私の決めた道を進ませてくれたわ。
歌織ちゃん、本気で頑張りなさいね」
と母の気持ちを聞いた。
「お母様の踊りをみたことはないけど、和服が似合ってたんでしょうね」
というと
「フフフ…今では和服が一人で着られて、粗相のない立ち振舞いができることが熊野の家に生まれて良かったことよ」
と笑いながら言った。
父とパーティーに行くときも母は和服が多い。
理由が分かった気がした。
家に帰ると8時半だったが、誰も帰っていなかった。
母は姉が帰っていないことに眉をひそめたが、何も言わず、母も部屋に戻った。
私も部屋に戻り姉に、母も家に帰っていることをメールすると、
“すぐ帰る”
と返信があった。
私は、そのまま風呂に入り、姉はその間に帰宅したようだった。