キーンコーンカーンコーン…。


6時間目の終了を知らせるチャイムが校内に鳴り響いた。


静かだった校内に賑やかな声が戻る。




スクールバッグに机の中の荷物をすべて詰め込み、
私は足早に教室を出た。


玄関で靴を履き替え、校門をくぐって学校を出る。





俯きながら家までの道を歩いていると―――――ドンッ。


誰かとぶつかってしまった。


…あ、いけない。


「痛ってぇーなぁ」


顔を上げると、
そこには金髪の髪の毛が眩しい、大柄な男の人が立っていた。
年齢は40代後半くらい。


首元に龍のタトゥーをいれていて、
明らかに“ヤクザ”だった。



すいません!

普通なら、謝って足早にその場を立ち去るだろう。



けれど、
私は、謝ることもできずに、
男の人の目を見つめたまま動くことができなかった。


緊張して動くことができなかったんだ。
謝ることができなかったんだ。



「ごめんなさいの一言くらい言えば?」



男の人はそう言って、私をギロリと睨んだ。


その目は
獲物を見つけたときの肉食動物みたいだった。



「………っ」


恐怖で後ずさりしてしまう、私。



ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。



足がガタガタと震える。
口の中がカラカラに乾く。



謝れ、私。
“ごめんなさい”って謝るんだ!


けれど、やっぱり声は出なくて。
口を開けられなくて。




「謝れよ!」



男の人がそう叫び、私の右腕を掴み上げた。



「――――っ!」


男の人のとんでもない握力に、思わず泣きそうになる。



痛い…!
痛い………っ!






その時―――――――「やめてください!」


後ろで誰かが叫んだ。







その声に、私と男の人は振り返った。



そこには―――――柊くんが立っていた。



「彼女はきっと悪気があったわけじゃないんです。
だから、やめてあげてください。お願いします」



柊くんは正々堂々と言い張って、男の人に深々と腰を折った。



「………わかったよ」



彼の説得に気圧されたのか、
男の人は、私の腕を放してどこかへ走り去っていった。