「理一君だ」

呟いた瞬間、ひょいっと取り上げられた。

「樹くん、返して。電話出ないと」

車から降りて手を伸ばすけど、ヒールを履いていても15センチ以上身長差のある樹くんには届かない。そのうち、電話も切れてしまった。

「もうっ!切れちゃったじゃない。掛け直すから返して」

あれだけ約束しておいて電話に出ないうえに掛け直さないなんて、月曜日にどれだけ怒られるか。理一君のお説教の長さは思い出すだけでうんざりしてしまう。私を心配してくれてるんだから申し訳ないんだけどさ。

だけど樹くんは、差し出した私の手を無視してエレベーターホールの方へと歩いて行く。

「ちょ、ちょっと、樹くん!携帯返してってか、車ロックしてないよ!!」



スタスタ歩くやっと追いついたのはエレベーターホールの前。コンパスの差が大きいから、追いつくのに時間がかかってしまった。

「ね、車のロック」

「大丈夫。鍵が車から離れたら、自動的にロックされるんだ。それと、はい。携帯返すけど、エレベーターの中では通話できないから部屋に入ってからだぞ」

「‥‥うん」