「ん?べつに急いでないんだから寄ってけばいいだろ。合コンの感想もまだ聞いてないしね」

「でも、すぐに帰るって理一君と約束したし。樹くんだって約束させられてたでしょ」

「俺は約束なんてしてないよ。気遣いしてもらわなくていいって言っただけ」


‥‥‥あ、ホントだ。


樹くんの言葉にお店でのやり取りを思い出して驚いた。あんなに何度も念を押されてたくせに、樹くんは私を”まっすぐ送る”とは一度も言っていない。もちろん、なんの約束もしてない。私にとって有害な存在にはならないって宣言しただけだ。

「うわぁ‥‥‥」

あまりの策士ぶりに感嘆の声を出すと、隣で満足そうに口角を上げた。

「褒めて頂いて光栄だな。ってことで降りて」

「いや、褒めてないから。それに私は約束してるし」

助手席のドアを開けてくれた樹くんに抵抗を試みた時、カバンの中から携帯の電子音が響いた。長く続くこの音は着信音だ。

急いでカバンから取り出して相手を確認して、軽く慌てる。