「そう、だっけ?」

「そうだよ。で、もしかしたら今日誰かを好きになったからじゃないか、と思ったんだ」

ウィンカーを出して車を発進させながらいつもの穏やかな口調で答えてくれた樹くんは、そのままするりと話題を変えた。もうこの話はおしまいにしたいんだろう。

「俺はね、正直、自分がモテないとは思ってないよ。でも誤解を招くような事は言ってないし、しない。だって外見で寄ってくる女は鬱陶しいだけだろ?」

「んー、でもそれってなんか‥‥‥。樹くん、自分が美形でモテるの自慢してる?」

「違うな。自慢じゃなくて自覚してるだけだよ。あ、それも自慢か」



いつもの樹くんと、いつもの軽口で笑いあってるのが楽しくて、全然車窓に気を払ってなかった。流れるようなハンドル捌きで着いたのは樹くんのマンションの駐車場。

「あのぉー、樹くん?」

まさか、うっかり自分のマンションに帰ってきちゃったって事はないだろう。

「私を送ってくれるん、だよ、ね?」

確認するように顔を覗き込んだら、しらっととぼけたられた。