「で、その前に告白されたと」
「は、はい……」
秋が怖すぎて目を合わせられない。
このままだと、確実に怒られる。
「はぁ…」
だけど、聞こえてきたのは秋のため息。
「俺、前に言わなかったっけ?男が寄ってくるから気をつけろって」
あっ…そうだ。
夏祭りに行った時に、確かに言われた。
その時、私は『そんなわけない』って他人事にしてた。
「ご、ごめん…」
でも、こうなることを予測してた秋はすごい。
秋の言うことをこれからはちゃんと聞こう。
「分かったならそれでいい。ほら、オムそば買ってきてやったから食べよう」
「うん」
秋が私の隣に座ってきた。
「秋は何にしたの?」
「俺はハンバーガー。隣で売ってたからこれでいいやって」
これでいいやって…適当だなぁ……
「このあとは、どうする?1年のクラスで動画の上映とか縁日とかやってるらしいけど」
「スタンプラリーもやってるよね?」
実は、さっきから赤ずきんや宇宙人の仮装をしている人を見かけていて気になっていた。
「あ~、仮装している奴らを見つけてスタンプをもらうってやつだろ?そういえば友達が仮装するって言ってたな…。まぁ明日もあるし、いろんなところ見て回ろうか」
「そうだね」
✽✽✽
文化祭2日目。
一般公開のこの日も、お化け屋敷は大盛況。
私たちは特に担当がなかったので、他クラスの教室イベントに行ったり、体育館で行われている舞台発表を見たりした。
最後は生徒全員で後夜祭。
キャンプファイヤーを囲んでフォークダンスをした。
私にとって、今まで1番楽しい学校行事になった。
あっという間に3ヶ月が過ぎて、今日はクリスマスイブ。
文化祭が終わった頃はまだ暑かったけど、10月中旬くらいから寒くなってきた。
12月の初めになると初雪が降った。
そして今日も雪が降っている。
「きれいだなぁ……」
目の前にある大きなツリーを見ながら呟く。
今まではそんなこと思ったことなんてなかったのに、思わず呟いてしまうほど感情が出るようになった。
「私もずいぶん変わったなぁ……」
今年に入ってからは本当に。
色々あったけど、生きててよかった。
「真咲。はい、これ」
ベンチに座っていた私にココアを差し出す秋。
「ありがとう」
ココアを受け取って、一口飲んだ。
「さっき言ってたこと、俺のおかげ?」
「へ?」
「真咲が変わったの」
嘘、聞かれてたんだ。
「き、聞いてたの?」
「聞いてというか、聞こえたというか」
……恥ずかしすぎる。
「そうだよ、秋のおかげ。秋が私に楽しさを教えてくれるんだから」
やけくそみたいに答える。
「じゃあ、俺の戦術にはまったわけだ」
秋がニヤッとする。
「……そうだね」
ちょっとムカつく。
「ちょっとは疲れとれた?そろそろ帰った方がいいかも」
「うん、大丈夫。帰ろう」
デートの後、秋の家でクリスマスパーティーをすることになっている。
楓香さんは私が一人暮らしと知ってから、イベントがあれば何かと招待してくれる。
「楓香さんと料理、楽しみだなぁ」
実は楓香さんが御馳走を用意してくれるらしい。
「クリスマスに御馳走なんて食べたことないなぁ……」
「そういう家庭も少なくないみたいだけど。俺の友達だって『いつもと変わんねぇ〜』って愚痴ってた」
「そうなんだ」
私だけ違うと思っていたけどそうじゃないと分かって、少しホッとする。
「じゃあ、帰るか」
「うん」
こうして私たちは秋の家に向かった。
✽✽✽
「ただいま」
「お邪魔します…」
「おかえり!寒かったでしょう?早く中に入って!」
楓香さんに促されて中に入ると、暖房が効いていてとても暖かかった。
そして手洗いうがいを済ませた。
テーブルを見ると見たことのないような御馳走が並んでいた。
「うわぁ……美味しそう……」
「喜んでくれて嬉しいわぁ〜」
うふふと笑う楓香さん。
秋斗さんにも促され、イスに座って御馳走をいただく。
「あっ、美味しいです!」
「よかったわぁ〜。まだまだあるから、遠慮せずに食べてね!」
「はい!」
初めて食べる御馳走に私はテンションが上がっていた。
ふと視線を感じて隣を見ると、秋と目が合った。
「どうしたの?」
「いや、可愛いなと思って」
秋の言葉に顔が赤くなる。
「2人の世界に入らないでね〜。一応、俺と楓香もいるんだけど〜」
そこに秋斗さんが入ってくる。
「分かってるって」
「頼むから控えてくれよ?昔の俺を見てるみたいで恥ずい」
「秋斗さんもこんな感じだったんですか?」
「まぁ…ね」
ちょっと意外。
「そうそう、真咲ちゃん。俺たちのことをさん付けで呼ぶのやめない?」
「……え?」
さん付けで呼ぶのやめるって……
じゃあ何て呼ぶの?