マンションの屋上。
私はここからぼうっと景色を眺めていた。
今日初めてこの景色を見た。
高くそびえ立つビルや、公園、学校、マンションや普通の民家など。
ここからいろんな景色が見れた。
でも、もうこの景色を見る日は2度と来ないだろう。
目に焼き付けるように、ただその景色を見る。
もう、そろそろかな。
目の前のフェンスをよじ登ってしまえば、私の計画はすぐに実行に移せる。
…今から何をしようとしてるかって?
私は今から……
自殺する。
いじめを苦に自殺する。
過労の末に自殺する。
世の中の自殺のイメージはそんな感じだろう。
よくニュースや新聞で見聞きするから、そのことは定着しているはずだ。
でも私はそんな理由で自殺をするわけじゃない。
今までの17年間、生きている意味が分からなかった。
なぜ、私は産まれてきたのか。
何のために生きているのか。
全てが分からなかった。
無意味とも言える17年間。
これから先を生きたとしても、どうせ何も変わらない。
もう、面倒くさい。
悩むことや、生きていることが。
少し上を見上げれば、青空が広がっていた。
『今からそっちに行くね。お父さん、お母さん。
……バイバイ、秋(しゅう)』
私は心の中でそう呟いた。
ただ、秋のことを思うと涙が溢れてきた。
……ダメだ。
ちゃんと吹っ切れないと。
私は目を瞑った。
その時頭によぎったのは今までの私、柚原真咲(ゆずはらまさき)の記憶。
物心がついたころ、私にはお父さん、お母さんと呼べる人はいなかった。
お母さんは私が産まれてすぐに容態が急変して亡くなり、お父さんは相手の飲酒運転による交通事故に巻き込まれ、意識不明の重体となり帰らぬ人となった、と聞いている。
家族がいなくなってしまった私は親戚の人に引き取られて育てられた。
でも子育てにあまり関心がないのか、何かとめんどくさそうだった。
遠慮がちにわがままを言ってみると、冷たい視線を向けられた。
食卓を一緒に囲んでも会話はない。
それ以外の時もあまり話すことはなく、家の中はとても静かだった。
そんな生活を送るにつれて、なるべく不快にさせないようにしようと思いながら過ごすようになった。
我慢をし続けているうちに、わがままは一切言わなくなり、欲がなくなっていった。
そんな感じで必要ないと思ったものを排除していくと、何も感じないし表情も変わらない、とてもつまらない女の子になってしまった。
幼稚園にいた頃、みんなで遊ぶことになった時、
『まさきちゃん、楽しくないの?』
と何度聞かれたことか。
そして喜怒哀楽が分からないまま、小学生になった。
小学生になると、幼稚園の時とは違うことを言われた。
『真咲ちゃんって、何でいつも怒ってるの?』
ずっと真顔でいると私は怖く見えるらしい。
確かに目つきは悪い方だし、少し目がつり上がっているからというのもあるだろう。
「怒ってなんかない」
そう言っても、
「えっ、でも……怖い…」
と言われた。
どのみち、私は怖がられるんだ。
それから私はどんどん人に対して壁を作っていった。