「ね、アルフ、寄ってもいい?」
「……まず、ひとまわりするんじゃなかったのか? お前、さっきから露店しか見てないだろう」
「でも、見たいわ。少しだけ、いいでしょう?」
「ふん、仕方がないな」
アルフレッドの腕から離れて、商品を眺める。
どれもかわいくてほしくなるが、中にひとつだけ気に入ったものを見つけた。
小さな赤い宝石を繋げて作られた、大きな花の髪留めだ。
それほど高くなく、今までは迷わずに買っていた値段のもの。
しかしバッグの中にあるのは大切に使うと決めた初給金で、どうせならもっと特別なものを買いたいと思う。
シルディーヌは迷った末に買うのを止めて、アルフレッドの元へ戻るべく振り返った。
アルフレッドは少し離れた位置に立っていて、シルディーヌではなくどこか他所の方をじっと見つめていた。
駆け寄ろうと一歩踏み出すと、横から走ってきた太った男性とぶつかってしまった。
「気をつけろ!」
太った男性は謝るどころか捨て台詞を吐いて走り去るが、突然のことで反論もできない。
それよりも困ったことに、華奢な体のシルディーヌはぶつかった勢いに任せて横っ飛びになり、宙に浮かんでいた。
目に映る景色がスローモーションのようにゆっくりになり、アルフレッドが何かを叫びながら駆けてくるのも見える。
だが間に合わないかもしれない。
そのまま成す術もなく、石畳にたたきつけられると覚悟して目をつむった瞬間、走りこんできたアルフレッドの腕にがっしりと抱き留められた。