シルディーヌは焦り始め、小走りで橋のたもとに向かった。


「ごめんなさい、アルフ。すごく待たせちゃったの?」


ワンピースの裾をふわふわと揺らして駆け寄り、開口一番に謝って見上げると、アルフレッドは予想外の反応を示した。

視線だけでネズミの心臓を止めそうだった迫力と不機嫌さが消え、夏空のように青い瞳からは和やかささえ感じる。

団服を着ていないから、雰囲気が違って見えるのだろうか。

でもさっきまで感じていた鬼神の迫力は、いったいどこへ……??

シルディーヌの頭の中で小さな疑問符が踊り狂う。


アルフレッドは、そんなシルディーヌを見つめたまま黙っていたが、しばらくして思い出したように口を開いた。


「……いや、待ったのはほんの十分程度だ。俺が、早く来過ぎただけだな」


アルフレッドは左腕のひじ辺りを、シルディーヌの方へ差し出した。


「……なに?」

「腕に掴まれってことだ」


ぶっきらぼうに言われたが、シルディーヌは躊躇する。

腕を組んでお買い物だなんて、まさに恋人同士のすることだ。

こんな不特定多数の人が行き交う公道でそんなことをして噂が立てば、シルディーヌだけでなくアルフレッドも困ることになるだろう。

シルディーヌは、ぶんぶんと首を横に振って、断る意思を伝えた。


「商店を見てはしゃぎ過ぎたお前が、犬みたいにコロコロ飛び回るのが目に浮かぶ。こんな人の多い中でそんなことになったら、俺が困るんだ。お前が腕を掴まないなら、俺がお前を捕まえて歩くぞ」