アルフレッドとの約束の日の朝、シルディーヌは鏡の前に立ち、くるりと一回転してみた。

ふんわりと裾が広がって、艶やかなピンクブロンドの髪がさらりと揺れる。

胸元と裾にレースとリボン飾りのついた若草色のワンピースは、シルディーヌのお気に入りのもので、自分でもよく似合うと思っている。

仕事の時はひとつにまとめている髪はおろし、両サイドはねじって後ろにもっていって花の髪飾りで留めてある。

侍女がいないため、サンクスレッドで暮らしていたときのように凝った髪型にはできないが、これだけでも十分かわいらしく、満足の笑みをこぼした。

久しぶりにお洒落をすると気分がとても華やかになって、体も軽やかになる。

服装が整えば、次は持ち物の準備だ。

シルディーヌは、チェストの引き出しを開いて小さな革袋を取り出した。

茶色のシンプルなこれには、初めてもらったお給金が入っている。

婿探しをする暇もなく、むさくるしい黒龍殿でお掃除三昧だったこの一か月。

アルフレッドの言動に翻弄されつつ夢中で過ごしてきたが、報酬をいただけたのはつい昨日のことだ。

侍女長から手渡されるものだと思い込んでいたけれど、夕日が射し込む黒龍殿の団長部屋で、『給金だ。受け取れ』と、アルフレッドから渡されたのだった。

事前に知らされていなかったこともあって少し驚いてしまい、おずおずと差し出した両手の上に、アルフレッドは革袋をのせてくれた。