「え? え? でも、アルフは今、人攫いの事件で忙しいでしょう? 黒龍殿から離れたらいけないんじゃないの??」
「大丈夫だ。ここにはフリードがいるからな。唯一留守を任せて置ける男だ」
「でも、やっぱり、凶悪な事件だもの。いざというとき、団長がいないと困ると思うわ」
「そんなことはないな。俺がいないだけで団を動かせんなら、副団長を名乗る資格がない」
「でも、お休みの日までアルフと一緒だと、休んだ気がしないわ」
「それは、諦めろ」
婿探しのためのお出かけなのに、アルフレッドが一緒だと意味がない。
なんとか阻止しようとするシルディーヌだが、アルフレッドは考えを変える素振りはない。
それどころか、アルフレッドは黒い微笑みを向けてきた。
「お前は、前に“俺の言うことをきく”と約束しただろう?」
「……へ?」
シルディーヌはハッと思い出した。
そういえば、初日にそんな約束をしたのだった。
「プライベートだ。約束を実行してもらおうじゃないか」
これでは断る術がない。
シルディーヌがしぶしぶ返事をすると、ようやく腕の中から解放された。
「ちょっと待ってろ」
アルフレッドは執務机に向かって何事かを考えたあと、紙切れにサラサラとペンを走らせた。
「ほら、忘れるなよ」
渡されたそれには、日時と場所が書いてある。
シルディーヌは複雑な思いでそれを見つめ、エプロンのポケットにしまった。