「教えてくれてありがとう、アクトラスさん。十分気をつけます。ほかの侍女にも注意しておくわ」
「よおし! お前ら、準備はいいな。行くぞ! 整列!」
アクトラスの号令で、騎士たちが整列して一斉に床を踏み鳴らして敬礼をする。
「じゃ、シルディーヌさん、行ってきます」
「はいアクトラスさん、みなさん、お仕事がんばってください」
出発する騎士たちを見送った後、シルディーヌはアルフレッドに朝の挨拶をするべく二階に向かった。
階段を上がるとすぐに、廊下の奥にある団長部屋から全身真っ黒な騎士のフリードが出てくるのが見えた。
扉を静かに閉めて足音を立てずに歩く姿は、曇天のせいで廊下が暗いのも相まって、少し不気味に映る。
アルフレッドといいフリードといい、足音を立てないで歩くのは優秀な騎士の必須条件なのか。
「あ、シルディーヌさん。ちょうどよいところでお会いしました」
フリードは、シルディーヌを見つけると急ぎ足で近づいてきた。
「下で、アクトラスの隊を見ませんでしたか?」
「ええ、捜査と見回りをするって、出かけて行きました。街で人攫いが出るって、アクトラスさんに聞いて、気をつけるように言われました」
「はい、その通りです。十分気をつけてください。今街は危ないんです。綺麗な娘であれば、ご令嬢だろうが町娘だろうが、見境なく攫われています。もしも街に行くことがあるなら、絶対にひとりで行っては駄目です。もしもシルディーヌさんが攫われたら、どうなるか……」