翌朝の空は黒い雲が広っていて、今にも雨が降り出しそうだった。
シルディーヌが赤い雨傘を持って黒龍殿に来ると、一階のホールでは騎士たちが出かける準備をしていた。
今日は曇天のためか、みんな団服の上に雨避けのマントを羽織っている。
五人くらいのチームで出かけるところは何度か見たことがあるが、今朝は三十人ほどが真剣な面持ちで準備を整えていた。
多分これが黒龍騎士団の中の、一部隊の人数なのだろう。
多くは険しい顔つきをしていて、数人で固まってメモ書きのようなものを見ている。
なにか事件が起こったのか、いつになく物々しい雰囲気で、シルディーヌは圧倒されてしまう。
それにホールが騎士でいっぱいなため、心理的にも物理的にも進みにくい。
黒龍殿の入口で止まり、思い切って騎士たちの中を突っ切るべきかと悩みつつ眺めていると、顔見知りの騎士の姿を見つけて安堵の笑みがこぼれた。
ガタイのいい騎士たちの中にあっても、ひときわ目立つクマのように大きな体は、アクトラス隊長だ。
彼に頼めば、簡単にホールの中を通れそうだ。
「アクトラスさん!おはようございます」
「お、シルディーヌさん。おはようございます!」
入口で立ち往生しているシルディーヌの元に、アクトラスが近づいてくる。
その表情は、以前一緒に掃除をした時に見た人懐っこい顔とは違って、とても険しいものだ。