シルディーヌが興味津々で尋ねると、きゃあきゃあ言っていたペペロネたちも静かにキャンディを見つめる。


「買おうとしていた大好きな紅茶が残りひとつしかなくて。それをちょうど貴公子さまが買うところだったらしいの。がっかりしていたら、その貴公子さまが『私は次回買うとしよう。これは、あなたに』って、譲ってくださったんですって! それがとても自然で、すごく印象に残ったらしいの!」

「まあ、素敵。なんてお優しいのかしら……」


ため息混じりに言うペペロネの後に、シルディーヌも夢見るような声を出す。


「そうよね。私も、そんなお方がいいわ……」


見知らぬ女性に対し、スマートに紅茶を譲る殿方。

きっと王太子殿下のように背が高く物腰も柔らかで、笑顔がさわやかに違いない。

想像を大きく膨らませ、胸をときめかせる。


「それで、数日後に王宮でばったり再会して、よくお話するようになったんですって。そして、お互いに恋をして……まさに運命的な出会いだわ……」


キャンディがうっとりと空を見つめると、一同も共感のため息を零す。

少し前まで賑やかだったテーブルは、みんなが思い思いの想像を膨らませているために一気に静かになった。


「私たちの、運命のお相手はどこにいるのかしらね……」

「もしも出会ったら、みんなに一番に報告するわ」


互いに約束しあい、すっかり止まっていた食事を再開した。


チキンパイを食べながらふと思う。

シルディーヌのことを一番大切にしてくれる殿方は、もしかしたら王宮の外にいるかもしれない。

王宮にいるだけでは、出会いが限られてしまう。

そうだ、外に出よう!

シルディーヌは、行動範囲を広げることを、密かに決めた。