けれど、いくら考えてもシルディーヌには思いあたるものがない。
首を傾げて見せると、フリードはいったん迷うような素振りをした後、声を潜めた。
「俺が言ったと言わないでください」
シルディーヌは、わくわくしながらこっくりとうなずいた。
アルフレッドの怖いものなんて、初めて知ることができるのだ。誰に聞かれても貝のように口を閉ざしてみせる。
「彼女である、シルディーヌさんですよ」
「……私!!?……冗談でしょう? そんなはずがないわ」
まず第一に彼女じゃないし、アルフレッドは幼い頃からずっと変わらずにドSなのだ。
例えばシルディーヌが怖いものに出会ったら、足がすくんだり、逃げ出したりする。
けれどアルフレッドは逆で、シルディーヌが驚いたり困ったりするのを楽しんでいるような感じだ。
ともすれば、叱ったりもする。
どう考えても、怖いと思っている相手への態度ではない。
けれど、フリードは訳知り顔でシルディーヌだと言い張った。
「団長の態度を気にしてみてください。怖いと思ってることが分かると思います」
「本当に……そうかしら?」
シルディーヌには、どうにも信じられないことだったが、フりードは大きくうなずいている。
今朝のアルフレッドの態度を思い返しても、盛大な疑問符が浮かぶばかりだが、いつもと違うと思ったのは事実だ。
「もしかして、あれが、怖いと思ってるってこと?」
いや違う。納得できない。
いくら考えても納得できるはずもなく、今度アルフレッドをよく観察してみようと心に決めたのだった。
そして、この日の午後はアルフレッドに会うこともなく過ぎていき、おかしな一日は終わった。