「はい。ここへ連れてくると連絡があったとき、すぐさま『ここへ連れてくるなどとんでもない! 俺が出向く!』と言って、矢のようにすっとんで行かれました。伝達に来ていた警備隊員と一緒に慌てて追いかけまして、朝の命令を伺ったわけです」
「そうだったの……」
フリードの話をじっくり聞けば、アルフレッドの周囲は朝から大騒ぎだった様子だ。
髪がすごく乱れていたのも、改めて納得できるというもの。
「でも、凶悪犯に対して迫力勝ちするなんて、鬼神のアルフには怖いものはないのかしら?」
アルフレッドの苦手なものは、幼い頃にさんざん探したが、結局見つけることができなかった。
虫も獣も平気そうだった。
さらに犯罪者も平気となれば、最高の地位につく王族が怖いのかもしれないと思う。
だが、王太子殿下はとてもおおらかで素敵な人だから、怖い存在とは言えなさそうだ。
「やっぱり、国王陛下かしら?」
「いえ、国王陛下は威厳あるお方ですが、団長は“怖い”と思っていないでしょうね。敬意は示されますが、実に堂々とした態度で話されます」
「じゃあ、結局、怖いものはなにもないのね」
なんだか呆れてしまうが、それがアルフレッドという人なのだろう。
鬼神の異名は伊達ではないのだ。
「いえ、団長にも怖いものはありますよ。怖いものと言うか、弱いものですね。シルディーヌさんは、近くにいて気づきませんか?」
フリードは意味ありげににっこりと笑って、シルディーヌを見ている。