「ところで、執務部屋の掃除はしたのか?」
「あ……まだしてないわ。お掃除道具を探していたら、アルフが帰って来たんだもの。時間がなかったわ」
「まったく、先が思いやられるな。優秀な侍女は、テキパキ仕事をするもんだぞ。俺が来る前に、掃除道具を見つけているだろうな」
アルフレッドは呆れたような声を出すが、「道具はチェストの横にあると」言って、シルディーヌの背後を示す。
「チェストの横?」
その場所を振り返り見ようと動いたシルディーヌの背中に、ポンと、平たいなにかが当たった。
思いもよらずに温かいそれに、ぐっと力が入ったと感じるとともに、アルフレッドの方へ引き寄せられる。
「え? アルフ?」
たくましい胸に頬を押しつけられて、一瞬ぎゅっと抱きしめられるがすぐに解放された。
「午前中はここにいろ。そそっかしく、物を壊すなよ」
ぼそりと言い置いてアルフレッドは執務の部屋へ戻っていく。
パタンと扉が閉まり、残されたシルディーヌには、一瞬抱きしめられた驚きと、注意されてムッとした感情が混在する。
さらに、侍女増員が絶望的になった残念感も加わり、なんとも不可思議な心理状態に陥る。
その悶々とした気持ちを、夢中になって掃除することで、なんとか解消したのだった。