鬼神の檻から解放された安堵感から息を吐き出しているシルディーヌに、アルフレッドは部屋の片隅にある応接セットの椅子を顎で示した。
「座れ。尋問する」
言われるまま浅く腰掛けると、アルフレッドは向かい側にどかりと座って脚を組み、シルディーヌを見据えた。
「まず、なんでお前が王宮にいるんだ? サンクスレッドで野山を駆けているはずだろう」
「失礼ね。野山なんて駆けません。これでももう花の十六歳、淑女なんですから」
「淑女はこそこそ忍び込んだりしないし、俺を相手にモップで闘おうとしないぞ」
「だって……それは、そうしないと、斬られてしまうでしょう。しかたなく、なの。身を守るためです」
モップ投げの企みがバレていたのかと焦りつつも、幼馴染みっぽい会話に安堵もする。
そして同時にムカッともする。
野山を駆けていたのはイジワルなアルフレッドに追いかけられていたからで、断じて好き好んで走っていたわけではない。
今でも鮮明に思い出す。
『いいものやる』と言って差し出してきたのが、シルディーヌがこの世で一番嫌いなうにょうにょの虫だったことを。
いらないと言ったのに、しつこく追いかけてきたから必死に逃げたのだった。
それから、『この板を踏んでみろ』と言われて素直に踏んだら、バサーッと、それはもうたくさんの葉っぱが落ちてきたこともある。
埋もれてしまって、抜け出すのにすごく苦労したのだ。