「え……?」
振り返るとアルフレッドが扉にもたれるようにして立っており、シルディーヌは驚くよりも、不思議なものを見つけた気持ちになった。
足音もなく気配も感じさせずに近づくのは、優秀な騎士たる所以か。
つい十分ほど前にフリードからここで待っているように言われたのに、もう帰ってきている。
国家警備隊のところは、短時間で行き来できるほど近いんだろうか。
それとも、単に早朝から出向いていたのか。
フリードの態度と言葉からは、とても時間がかかりそうな印象を受けたのに?
頭の中に大きな疑問符を幾つも浮かべて、声も出さずに見上げるシルディーヌを、アルフレッドは無言のまま見つめ返している。
その雰囲気が、いつもとちがう。
青い瞳が潤んだように見えるし、頬がちょっぴり紅潮している。
なにより、いつもそれなりに整っている髪が、嵐の後の草原のようになっている。
「アルフ……忘れ物したの?」
「なんでだ。俺は、そんなにそそっかしくないぞ。それに、野暮用は済ませてきたから、ここにいるんだ。忘れ物と思ったのは、どういうことだ」
「え、だって、アルフが尋問するのはとても怖い人なんでしょう? もっと時間がかかると思っていたの」
「ふん、他愛ないぞ。尋問始めて五分ほどで落ちた。もっと骨のある奴だと思っていたが」