先日のように王太子殿下が急に訪ねて来られても、すぐに部屋に通せるよう、常に綺麗にしているのだろう。

シルディーヌがすることは少ないように思う。

それでも、とりあえず掃除道具がなければなにもできないので、ありかを探すことにする。

王宮内の道具置き場は決まっていて、どの宮殿でも正面入り口から入って右奥の小部屋にあるものだ。

だが、この部屋にはどこにあるのか。そもそも道具が置いてあるのか。

窓に背を向けて置かれた執務机、壁にずらりと並ぶ書棚、タイルの意匠がほどこされた暖炉、シンプルだが品のある応接セット。どこにも置き場らしきものがない。

だが応接セットの向こうの壁に、扉がひとつあるのに気づいた。

ツタの葉の文様が浮き彫りされた、割と高級な白い扉だ。


「あれは、書庫かしら? あの中に、お掃除道具があるかもしれないわ」


大事な場所ならば、鍵がかかっているかもしれない。

そう思いながら、シルディーヌが扉の取っ手を握ってみると、意外にも簡単に開いた。


「え……ここは……」


中は書庫でも物置でもなく、普通の部屋だった。

背の高いアルフレッドがふたりほど眠れそうな大きさのベッドがあり、テーブルセットやチェストなどの調度品もあって、シルディーヌの寮部屋よりも広い。

ベッドのシーツは乱れておらず、まるで生活感がないが、団服の上着らしきものがひじ掛け椅子の背もたれにかけてある。


「アルフは、寮じゃなくて、ここに住んでいるの?」


首を傾げると、背後で扉がパタンと閉まる音がした。