何事かと思いきや、その人は息を切らした状態で部屋を見回して、隅っこにいるシルディーヌに気づくとホッとしたような笑顔を見せた。
「シルディーヌさん! よかった。まだここにいたんですね。おはようございます!」
「え、あ……フリードさん……おはようございます」
「ああ、なんてことだ。シルディーヌさん、俺を見たときのガッカリ感が半端じゃないですね。団長でなくて、どうもすみません」
フリードは心底すまなそうに眉を下げるので、シルディーヌはドキドキしている胸をなだめながら首を横に振った。
変な勘違いをしてもらっては困る。
「違うわ。これは残念とかじゃなくて、びっくりしただけです。あの、すごく慌ててますけど、もしかして事件があったんですか? アルフはどこに……?」
「団長は野暮用がありまして、朝一で国家警備隊のところに行っています」
「……野暮用って?」
「はい。手に負えない犯罪者がいるからここに連れてくると、あちらから連絡がありまして。なかなか自白しないそうで、団長の手を借りたいと申し出があったんです」
「え、ここに怖い人が来るんですか? アルフが連れてくるんですか?」
「いえ、今回は団長が出向いていますから、ここには来ません。ですから、団長が戻られるまで、シルディーヌさんはこの部屋の清掃をしているようにと、言付かっています」
「この部屋を? 軍の機密書類があるのに、私が掃除してもいいのかしら?」
忘れもしない初仕事の日。間違えてここに入ってしまい、スパイ容疑をかけられたのだ。
剣を向けられたことは、今思い出しても震えてしまう。