どうしてこう、上手く事が運ばないのか。
黒龍殿に出勤したシルディーヌは、主のいない団長部屋で行き場のなくなった握り拳を持て余していた。
「せっかく、言いたいことをまとめてきたのに、肝心のアルフがいないなんて困るわ」
シルディーヌは、アルフレッドの執務机を手のひらでペシンと叩いた。
団長の部屋は整理整頓されていて、いつ来ても綺麗だ。
書状一枚とて置かれていない机はいつもよりも大きく見え、主が留守であることを妙に主張してくる。
ここに座っているはずのアルフレッドの怖い顔を思い出し、ふと寂しいような気持ちになった。
地の底から響くような声が聞けないのは、なんだか物足りないというか、満たされないというか……。
「ち、違うわ。私ったら、なにを考えているの!」
ハッと顔を上げて、慌てて首を横に振って否定する。
これは予定が狂って意気消沈したせいで、断じて、会えなくて寂しいからではない。
「そうよ、拍子抜けしただけだわ!」
今日は朝一番に侍女長を尋ね、南宮殿の侍女増員をお願いしてきたのだが、結果としては撃沈だった。
『南宮殿の人事は、侍女長には一切の権限がありません』
仕事の現状を話して願い出るシルディーヌに、侍女長は気の毒がることもなく、あっさりきっぱりと言ったのだった。