「お前、俺から逃げられると思ってるのか?」
シルディーヌはアルフレッドの腕の檻に閉じ込められてしまい、ごくりと息をのむ。
目の前は閉められた扉、背中には鬼神のように逞しい体、どうやっても逃げられないと覚る。
「逃げるなんてとんでもないです……許してくれたと思っていました」
「甘いな。俺は、そんなことは言ってないだろ」
「どうするつもりですか?」
「規則は規則。破れば罰する。揺るぎないものだ」
頭の上から降ってくる声は低く平坦で、どんな表情をしているのか想像するだけでも恐ろしい。
言いたくない言葉だが、シルディーヌは最後の手段とばかりに口にすることを決めた。
「お、幼馴染みではないですか」
「確かにそうだな。だが、それとこれとは別だぞ。お前のスパイ容疑は翻らない」
「スパイだなんて……私は、そそっかしくてドジなんです。軍の機密を探れるような器用さは持ち合わせていません」
「そんなことは知っている」
「だったら……」
その先の言葉を飲み込み、シルディーヌはしょんぼりと肩を落とした。
おそらく何を言っても同じことの繰り返しだろう。
それに、ずっと扉とデカイ体の間に挟まれたまま。
緊張と物理的な狭さから、シルディーヌは息苦しくて頭がくらくらしてきた。
それを感じ取ったのか、もう逃げないと踏んだのか。
体を覆っていた黒い影がすっと離れた。