アルフレッドの口調が少しだけ砕けたものになっている。

シルディーヌは少しホッとするも、剣先は変わらずに向けられたままで、眼力にも変化がない。

いざとなればモップで反撃するしかないと決め、気づかれないようにこっそり身構える。

敵いっこないが、びっしょり濡れた汚いモップを顔に投げつければ、いくら鬼神といえども少しは怯むだろう。


「た、確かに、聞いていたよりも遠いなーと思いましたけど! 王宮は広いので、こんなものかと思ったんです!」

「ちっ、お前は方向音痴で短慮な奴だな。常に周囲を確認する癖をつけろ。だいたい入り口に警備がいただろう。どうやって入った。壁を登ったのか?」

「そんなことできっこないでしょう! それに、警備なんていませんでしたから、玄関から堂々と入りました!」

「なんだと? ったく、あいつら、またサボったのか」


苦々し気に言うと、アルフレッドは剣を下した。

その鈍く光る切っ先の行方を見つめつつ、シルディーヌはゆっくり手桶を持ち上げ、そろりそろりと扉へ向かって移動する。


「……誤解は解けましたよね? じゃあ、私はこれで……西宮殿の掃除をしなければなりませんので。ごめんなさい。二度とここに近づきません」


というか、二度と顔も姿も見せません!!と心の中で叫びつつ、扉の取っ手を握った。


「ちょっと、待て」


アルフレッドの腕が素早く伸びてきて、開きかけた扉をバンッと閉めた。