張り詰めていた場の空気が少し和んだように感じ、シルディーヌがホッと胸をなでおろした、そのときだった。

ふっと視界に影ができ、不思議に思ったシルディーヌが見上げると、アクトラスが斜め前に立っていた。

片手を腰に当て、もう片方の手はシルディーヌを示している。


「いいか、お前ら。このシルディーヌさんはただの侍女だが、実は団長の大事なお方でもあるんだぞ。ちゃんと挨拶をしろ。そんで、シルディーヌさんの言うことを聞けよ。よし……敬礼!」


アクトラスの号令で、団員はいっせいにダン!と床を鳴らして姿勢を正し、ビシッと敬礼をする。


「了解! シルディーヌさん、よろしくお願いします!」


床を踏み鳴らした影響と団員の声の大きさとで、窓がビリビリと揺れる。

その迫力に圧倒されてしまい、シルディーヌは目が回りそうになる。

侍女が来たことを喜んだり、団長に女ができたと喜んだり、団員同士で異常な盛り上がりを見せていて、まるで宮殿全体が揺れているよう。

このままでは、“団長のもの”だの“大事なお方”だのと噂が広まっていき、婿探しに多大な影響を及ぼすことは間違いない。

だが、否定の声は一切届きそうになく……。


こうなれば、アルフレッド本人から否定してもらうのが一番だ。

そうだ、団員が集まったときに、ひとこと『違う』と言ってもらえれば済む。簡単なことだ。

シルディーヌは、アルフレッドの不機嫌そうな顔を思い浮かべ、再び拳を握りしめたのだった。