「あ……か、雷っ!? やだっ、怖いっ」
数秒の後にごろごろと雷鳴が轟き、シルディーヌの体が硬直した。
徐々に稲妻と雷鳴の間隔が短くなっていき、雷は王宮に接近する。
やがてドドーン!と大地を引き裂くような轟音がし、宮殿がビリビリと揺れた。
「きゃああぁっ。落ちたっ。アルフ、雷が落ちたわっ」
「落ち着け。ここにいれば大丈夫だから」
胸にしがみ付いて震える体を強く抱きしめ、背中を優しく摩り続ける。
雨も激しく降り始めて窓をビシビシ叩くから、シルディーヌの怯えは増すばかりだ。
雷と雨が猛威を振るうのは、ほんの一時のこと。
だが、シルディーヌの怯える様を見るにつけ、アルフレッドの不安が広がっていく。
なにかあったときに近くにいれば、こうしてシルディーヌを守ってやれるが、出かけている時もある。
シルディーヌが侍女寮の部屋でひとりでいる場合もあるだろう。
やがて雷が遠ざかっていき、それとともに雨も弱まってきた。
窓の外一面に広がっていた黒雲は流れていき、夕焼け色に染まった空が広がり始めている。
アルフレッドはシルディーヌが落ち着いたのを見計らって尋ねた。
「侍女を辞めるか?」