「ああ、外に出るな。それから入り口にいる警備隊員に宮殿の中に入るよう伝えろ」
アルフレッドが団員に指示をし、シルディーヌがいるであろう場所へ向かおうとしたその時、雷鳴が小さく轟いた。
音の大きさから判断するにまだかなり遠く、宮殿内にいれば稲光も見えない距離だ。
だが、アルフレッドの胸がざわざわと騒ぐ。
もしもシルディーヌが侍女寮に向かっていれば、途中で雷にあう可能性がある。
アルフレッドは盛大な舌打ちをして、すぐさま駆けだした。
団員がなにかを言っているが、アルフレッドの耳に入らない。
飛ぶように階段を駆け下り、矢のように廊下を駆ける。
すると、前方にある使用人室からシルディーヌが出て来た。
商店街で買ったばかりの傘を持ち、まさに今帰ろうとしているところだ。
のんきな様子で、雷が鳴っていることに気づいていないらしい。
「待て! 今帰るな!」
「え、アルフ? そんなに急いでどう……きゃっ」
猛烈な様子を見て驚いているシルディーヌの体を、アルフレッドはさらうように抱き上げて使用人室の中へなだれ込む。
「あ、あのアルフ?」
「黙って俺の腕の中にいろ。じきに来るぞ」
「え、え、なにが起こっているの??」
訳が分からずに戸惑いの声を上げるシルディーヌだが、窓の外を閃光が走って部屋の中を明るく照らした瞬間、血色のよかった顔がみるみるうちに青ざめた。