そして仕事に没頭し続けること二時間足らず、アルフレッドは部屋の中が暗いことに気づいた。
時計を見ればまだ五時で、暗くなるには早すぎる。
アルフレッドは、窓の外を見やった。
日中は雲が多くとも青空が見えていたが、今は一面黒い雲に覆われている。
執務中はいつも机のランプを点しているから自身の周りは明るく、さらに仕事に集中していたために気づくのが遅くなってしまった。
「ちっ、こいつはひと雨きそうだな……」
正門近くにある黒龍殿から侍女寮まではかなり距離があり、途中に雨宿りできる建物はほぼ無い。
そしてインクを流したような雲の黒さ。
アルフレッドは睨むようにして空を眺め、ひと思案した後書きかけの書状にペーパーウェイトを置いて机を離れた。
窓のない廊下は、まるで夜のような暗さ。団員がランプに火を点しながら反対側から歩いてくるのが、ようやく分かる程度だ。
アルフレッドの頭の中では、ガタガタ震えているシルディーヌがしきりに助けを求めている。
シルディーヌの苦手なものは、うにょうにょの虫と害虫、そして雷だ。
暗闇も苦手なはずだが、前者ほどではない。
「あ、団長。すごい黒雲ですね。雷が来るんじゃないっすか?」
団員は廊下のランプを点しながら、心配げに眉を寄せる。雷は災害を起こすから厄介だ。