「じゃあアルフ。私はお仕事をしてくるわ」
花を飾り終えたシルディーヌは、上機嫌な様子で廊下へ出て行く。
それと入れ替わるようにして、副団長のフリードが書状の束を持って入ってきた。
「いい香りがすると思ったら、執務室に花とは……シルディーヌさんですか」
「朝ここに来る道すがら花壇の花を眺めていたら、親切な庭師が間引いたのをくれたそうだ。さぞかし欲しそうな顔をしていたんだろうな」
「女性は花が好きですから。ああそうだ、今はコルマルの丘にあるマンデリアの花が綺麗なときですよ」
「マンデリア? なんだそれは」
「コルマルの丘の名物です。ああそういえば、マンデリアの花祭りが今週末から開催されますね。シルディーヌさんが見ればきっと喜ぶでしょう」
「なんだ、その下手な役者のような台詞は。貴様は、俺にコルマルの花畑へ行けと言うのか」
「いえ、滅相もございません。一般論を言っただけです」
フリードはしれっと言い、書状の束を執務机に置いた。
そして束ごとの処理する期日を説明して「ではよろしくお願いします」と言って出て行く。
今週末と言ったら三日後だ。
仕事を山のように持ってきたのに遊びに行けと勧めてくるとは、いったいどういう了見だ。
いや、たしかにシルディーヌは、花畑は素敵で感動するものだと瞳を輝かせていたが……。
「む……仕方がないな」
アルフレッドは舌打ちをしつつ書状の束を手に取り、中身をさらっと確認して処理する順序を決め、さっそく仕事にとりかかった。