「だからね、せっかく庭師さんにいただいたんだもの。ここに飾ってもいいでしょう? アルフが仕事に疲れたとき、かわいい花を見て和んでほしいの」
「……俺のためなのか」
騎士団長であり、国防長官でもあるアルフレッドの仕事は、常に忙しくて面倒なことが多い。
花を見たくらいじゃ疲れも取れないし、和みもしない。
一番和めるのはシルディーヌと一緒にいる時間なのだが、それをいくら伝えてもこの愛しい恋人は理解してくれない。
先日の舞踏会の夜に愛を伝えて、情熱的な口づけをしたのがウソのようである。
もしやあれだけでは不十分だったのか。
どんなふうに伝えればいいのか。
恋人になる前もなった後も、アルフレッドの個人的な悩みはただ一つ、“いかにしてシルディーヌに愛情を伝えるか”だ。
なにしろシルディーヌは、アルフレッドが愛を込めた渾身の一撃を放っても、真正面で受け止めることが少ないのだから。
「ふん、お前の言い分は分かったから、好きに飾れ」
「ええ、もちろんそうするわ!」
うれしそうな笑顔を向けられ、アルフレッドの頬が少しゆるむ。
これがほかの侍女ならば『そんなものは仕事の邪魔だ』と冷たく言い放って、即刻片づけさせるのだが。
鼻歌交じりで楽しそうに花を飾る後ろ姿を見て、小さなため息をついた。
アルフレッドはシルディーヌに甘い。
譲れないこともあるが、たいていのことは希望通りにしてしまうのだった。