「それでも恋をするって……黒龍の騎士団長というお方は、そんなに魅力があるのかしら?」
キャンディが心底分からないといった感じで首を傾げる。
ひどい言葉を投げつけられるとの噂が立っても、それをものともしない大きな魅力があるのか。
シルディーヌは、今日再会したばかりのアルフレッドを思い浮かべてみるが、やっぱり怖いばかりで魅力など微塵も感じられない。
シルディーヌは平気で話ができるが、深窓のご令嬢だったら、アルフレッドの地の底から響くような声を聞いただけで失神してしまいそうだ。
若干十九歳で黒龍騎士団を纏める団長になったのは、とても素晴らしいことではあるが……。
シルディーヌがアルフレッドのことを考えている間にも話題はいつしか別のことに移っていき、食事を終えたあとは、侍女寮にあるそれぞれの自室へと戻った。
侍女に与えられている部屋は、入り口から窓まで十五歩程度で横幅は八歩ほどの広さ。
細長くて、サンクスレッドにある自室と比べれば三分の一程度のものだ。
それでもベッドに調度品など生活用具がすべてそろっていて、ひとりで過ごすには十分快適な環境だ。
湯に入ったあと髪を拭きながら、洗濯に出すものなどの仕分けをし、明日の準備を整える。
実家では侍女がやっていたことだが、ここでは全部自分でしなければならない。