「ね、シルディーヌは? 西宮殿はどうだったの?」
「素敵な貴公子さまにお会いできたの?」
隣にいるキャンディもシルディーヌの顔を覗き込む。
期待を込めた、キラキラした視線がシルディーヌに集中する。
みんな同じように、田舎から出て来た貴族令嬢たちだ。
各々事情は違えど、目的はシルディーヌと一緒で年齢もほぼ同じ。
興味津々な眼差しを向けられて言葉に詰まってしまう。
「えーっと、そうね。残念ながら、貴公子さまには会えていないわ。ひとりも」
そう言った途端に、みんなから残念そうな声が上がった。
あれからずっと黒龍殿の清掃をしていて、結局西宮殿に行っていないのだ。
『お前は整理整頓でもしていろ』
アルフレッドに言われて、ずっと、雑多なものが仕舞われた物置部屋の中にいた。
ホコリまみれの何に使うか分からない道具をひたすら雑巾で拭いていて、『今日は、もう終わりだ』と突然言われ、ぽいっと外に出されたのだ。
外はもう夕暮れになっていて、そんなに時間が経っていたのかと驚いていると『早く戻れ』と急かされたのだった。
不思議なことに黒龍殿の廊下にも入り口にも人っ子一人おらず、騎士団員にすら会っていない。
仕事が終わったことを侍女長に報告するときに、西宮殿に行っていないことを叱られると思っていたが、なんのお咎めもなかった。
約束通り、アルフレッドが何とかしてくれたのだろう。
『俺の言うことを聞くなら……』
いったいどんなことを要求されるんだろうか。
イジワルなアルフレッドの考えることだから、ろくなことじゃないだろうが皆目見当がつかない。