斜め下の女性は叫ぶように言ったあと、手のひらで顔を覆って部屋の中に引っ込んでしまった。

おそらく泣き崩れているのだろう、シルディーヌの胸がツキンと痛んだ。


「おい、お前! なにを騒いでいるんだ! 静かにしろ!」


急に背後から怒鳴られ、シルディーヌの心臓が縮みあがった。

心臓を躍らせながらも振り返ると、男が少し開いた扉から顔をのぞかせている。

髭もじゃで額に傷があり、こわもての絵に描いたような悪人面だ。

目つき悪く、シルディーヌを値踏みする様にジロジロ見ている。


「なんだ、お前貧相な体だな。別段美人じゃねえし、もう一方の女なら金になるだろうが……。なんでこんな金になりそうもない女をさらってきたんだ」


ブツブツと文句を言う髭もじゃ男の後ろから、別の声が聞こえて来る。


「それが、ふたり一緒にいたんで。えへへ……ノルマもあって、ついでにさらったんです。すいません。えへへ」


媚びを売るような感じの言い方で、もう一人は下っ端のよう。

ペペロネは金になり、シルディーヌは金にならない?

随分失礼な言い草で、思わずムカッとし、それならば早く解放してくれと言いたくなる。

でもこの状況では命を奪われて森に捨てられるのがおちで、シルディーヌはぐっと堪えた。


「まあ、中には物好きもいるだろう。金持ちには妙な嗜好の持ち主もいるからな。おい、お前! これでも食っとけ!」


髭もじゃの男が引っ込み、開いたままの扉から毛深い手が小さなトレイを置いて扉を閉めて行った。