シルディーヌは、交渉に失敗しているのだろうか。
もし駄目ならば、ペペロネにどう謝ればいいのか。
「それならば、俺がドレスを買ってやる。それでいいだろ。仕事が終わったら店に連れて行ってやるから、執務室に来い」
分かったらさっさと仕事をしろと言って、くるりと背を向けてしまう。
アルフレッドが、ドレスを買ってくれる。
アクトラスの予言通りになって驚いたシルディーヌだったが、ハッと覚醒し、アルフレッドを追いかけるようにして声をかけた。
「待って、アルフ。それじゃまた困るわ」
「なに、それはどういうことだ」
「連れて行ってくれて、ドレスを買ってくれるのは、とてもうれしいわ。だけど、ペペロネと一緒にドレスを買いに行く約束をしたの。だから、その……お休みがほしいわ」
「ペペロネとは、誰だ?」
「お友達の侍女なの。お互いのドレスを選びあうの。ね? だから、いいでしょう?」
懇願する様に言うと、アルフレッドは一瞬困ったような顔をした後、ぼそりと言った。
「仕方がない……いいだろう」
「ありがとう! アルフ!」
なんとか交渉に成功して、ひと仕事を終えたような疲れに襲われた。
それほどに、緊張していたのかもしれない。
それでもペペロネとの約束は守ることができる。
自分自身を「よくやったわ!」と大いに褒め、今日の仕事にとりかかった。