椅子から立ち上がったアルフレッドが、シルディーヌのそばまで歩いてくる。

それを見ながら、シルディーヌは胸の前で手を組んで首をかしげて、甘えるようにしてみた。


「そうなの。でも、私ドレスを持ってなくて、買いに行かなくちゃいけなくて……困ったわって、アクトラスさんに話していたの」

「それなら、出なければいいだろう」

「駄目よ。みんなと約束したもの。それに、せっかく王宮にいるんだもの。私もかわいいドレスを着て華やかな気分を味わいたいわ。みんなが楽しんでいるのに、ひとりだけ寮にこもってるなんて哀しすぎるわ」


言いながらも、ひとり寂しく寮で待ってるのを想像してしまい、本当に哀しくなる。

大広間から漏れ聞こえてくる音楽を聴くだけなんて、切な過ぎて涙がじわりと出た。

潤んでキラキラと光る翡翠色の瞳でじっと見つめると、アルフレッドの眉がちょっぴり下がった。


「む……そういうものなのか」

「そうよ。私の身分だと、きっと、一生に一度しかない特別な機会だわ」

「そんなことはないと思うぞ。これから何度だってある」

「どうして? 田舎の子爵家だもの、そんなことあるわ」

「それはだな、つまり……」


アルフレッドは、珍しくも口の中でごにょごにょと言い、いらいらしたように前髪をくしゃっとかきあげた。

アクトラスは“団長はデレる”と言っていたが、ちっともそんなふうに見えない。