シルディーヌは半信半疑ながらも、執務屋へと向かう。
いつも通りにしようと思えば思うほど、なんだか緊張してくる。
執務室の扉を開けると、アルフレッドはなにやら書き物をしている最中だった。
「お、おはよう。アルフ」
「ふん、遅かったな。下でなにをしていた? また害虫でも見つけて、逃げていたのか。いい加減、慣れた方がいいぞ」
アルフレッドは書状から顔を上げることなく問いかけてくる。
とっても忙しそうで、交渉するにはタイミングが悪いかもしれない。
出鼻をくじかれて、力の入っていた肩がすとんと下がった。
「違うわ。遅くなったのは、アクトラスさんと少しお話していたからなの」
「アクトラスと?」
ペンを動かす手を止め、アルフレッドはシルディーヌの方を向いた。
青い瞳は鋭く光っているが、これは交渉のチャンスかもしれない。
まずはアドバイス通り、大いに困って見せなければ。そう思うとまた肩に力が入った。
「ええ、あの、今度王宮舞踏会があるの、アルフは知ってる?」
「知ってるぞ。フューリ殿下の暇つぶしの会だろう、毎年やってる。それがどうした」
「それに、侍女仲間と一緒に参加することになったの」
「なに? お前が?」