「私、どこか変かしら?」
「はい、その、ずっと同じところしか掃いてませんでしたので、おかしいなあと思いまして」
「え? あ……」
言われてみれば、全然動いていなかったことに気付く。
入口ポーチのほぼど真ん中をひたすら掃いていた。
入口両側に立つ警備員たちが、笑うでもなく憐れむでもない、なんとも微妙な表情をしてシルディーヌを見ていた。
「ちょっと、考え事をしていたの。だから……」
「どうかしたんですか? まさか、団長とケンカしましたか」
フリードがそう口にした途端、警備員のふたりが「げげ! マジですか!」「あの団長とケンカ? この侍女が?」と、シルディーヌを値踏みするように見る。
彼らは王宮警備隊員で、黒龍殿に配備されたばかり。
ここではシルディーヌが“団長の女”で通ってることをまだ知らない。
そうなった経緯を彼らに説明するわけにもいかず、シルディーヌはフリードをポーチの隅に誘って声をひそめた。
「ケンカじゃないわ。逆なの。だから戸惑ってるの」
シルディーヌは、商店街でお金を使わなかったことや、誕生日なのに『物はいらない』と言われたことを簡単に話した。
とにかく、謎の答えのヒントがほしい。そう思ってのことだ。
「おかしいでしょう? アルフだったら、ほしいものをたくさん“無理でも準備しろ”って言いそうなのに。逆だったの」
「あー、シルディーヌさん。それは、違います。団長のほしいものは、この世でたったひとつしかありませんから。物は買えますが、それは、買えません」
「それは、まさか、ひょっとして……もしかして」