それに商店街では、シルディーヌは一度も代金を支払っていない。
アルフレッドがいつの間にか支払いを済ませてしまっていて、後から代金を渡そうとすると毎度視線で遮られた。
最後には厚意に甘えてしまったけれど、昨日はアルフレッドの誕生日だったのに……。
「これじゃ、逆だわ。おかしいわ」
一日の態度を思い返せば普段とは違って紳士的に思え、考えれば考えるほどに、あり得ないと思える言葉が頭に浮かぶ。
「でもまさか、そんなはずないわ」
だってアルフレッドは、とても口が悪いのに。
今日の朝だって、『ふん、今日こそ、俺を快適にしてくれるのか?』とイジワルく言ったのだから。
「ちっとも優しくないんだもの」
アルフレッドは、難解すぎる。
せっせと箒を動かしながらもぶつぶつ呟いていると、背後から呼びかける者がいた。
振り向くと、数束の書状を抱えたフリードが階段を上がってくる。
ちょっと心配そうな顔をしているが、なにかあったのだろうか。
「フリードさん。アルフのお使いに行ってきたんですか?」
「はい、そうなんですが……シルディーヌさん、大丈夫ですか?まさか、具合が悪いんですか?すぐに団長に言わなければいけません」
「そんなことないわ。元気いっぱい、いつも通りよ」
シルディーヌは笑顔を見せるが、フリードはなにか言いにくそうな、困ったような表情をしている。