「夢をみていたのかしら?」


シルディーヌは黒龍殿の入口を箒で掃きながら、こてんと首を傾げた。

なにをしていても思い出すのは昨日のこと。

邸でバイオリンの音色を聴きながら食事をするなんて、シルディーヌにとっては初めての経験だった。

とても雰囲気が良く食事も美味しくて、時間が経つのも忘れるほどに楽しかった。

あんな特別で素敵でロマンチックなことを、イジワルなアルフレッドが考えるなんて……。

それに昨夜アルフレッドは、『夜遅いから危ない』と言って、マクベリー邸から侍女寮の前まで送ってくれた。

王宮内なら警備が行き届いているから危険はないし、人目につくと困るから、シルディーヌは正門まででいいと断ったのだが、頑として譲らなかった。


『駄目だ。お前は考えが甘過ぎる。寮の玄関まで送る』


アルフレッドは気迫満点な声でそう言って、しっかりとシルディーヌの手を掴んで、玄関前で『おやすみなさい』と言うまで離さなかった。

買い物袋を全部持ってくれて、暗闇の中で人の気配を感じると腕の中に入れて隠してくれたりした。

令嬢として扱ってくれたというか、女性として扱ってくれたと言うか、シルディーヌを大事にしてくれている感じがすごく伝わってきたのだ。