アルフレッドが引いた椅子にシルディーヌが腰かけ、向かい側の席にアルフレッドが座ると、楽師が丁寧に礼をとった。


「まずは、アルフレッド・マクベリーさま、お誕生日おめでとうございます」

「え……アルフの……?」


驚いているシルディーヌをよそに、アルフレッドは特に変わらない態度で楽師の口上を聞いている。


「このような記念すべき日に、私どもに曲を奏でる資格をお与えくださった事、マクベリーさまに至極感謝いたします」


楽師が口上を述べ終わり、優雅なバイオリンの音が奏でられる中、シルディーヌはアルフレッドにお祝いの言葉をかけた。


「お誕生日だと言ってくれれば、プレゼントを用意したわ」


ちょっぴり恨みを込めて言うと、アルフレッドはぼそりと言った。


「お前から物は要らない。今日、お前がこうして一緒にいるだけで、俺は十分だからな」

「え、あの……それは、どういう意味なの?」

「……物は、要らない。そのままの意味だよ」


アルフレッドはそれ以上言わず、シルディーヌもなにも聞けず、バイオリンの優雅な音色が食堂に響く。

シルディーヌは深く考えるのを止め、今の時間を楽しむことにした。

せっかくの誕生日の食事なのだから、アルフレッドに喜んでもらわないといけないのだ。

きっと楽しむために、シルディーヌが一緒にいるのだから。

それからは話をしたり、楽師に曲のリクエストをしたり、精いっぱいに楽しく過ごした。

そしてシルディーヌが侍女寮に戻ったのは、ずいぶん夜が更けた頃だった。