「まあ、そうなんですね!それは特別なことですわ。お嬢さまに見せるお顔が変わらないのは、とても素晴らしいことです!」
侍女は上機嫌な様子で「それでは支度が出来ましたら、お呼びいたしますわ」と言って部屋を辞していった。
シルディーヌが怖いというのは、以前フリードにも言われたことだ。
侍女もフリードも、アルフレッドがブルブル震えているところでも見たのだろうか。
想像してみて、全力で否定する。
商店街で太った男性にしたように人を恐怖の海に沈めることはあっても、アルフレッドが恐怖に慄くことはないだろう。
侍女のうれしそうな様子から、きっと多分別の意味の“怖い”だろうが、なんか漠然としている。
アルフレッドは謎だらけだが、シルディーヌ以外の人はなにかを知っているよう。
それはいったいなにか。
はっきりせず、モヤモヤしながら侍女が入れてくれたお茶を飲むと、スモーキーな香りと甘い花のような香りがした。
「本人に訊いてみようかしら」
ぽつりとつぶやいてカップをソーサーに戻すと、アルフレッドが戻って来た。
フロックコートを脱いでいるが、ベストを着てきちんとタイを締めている。
「待たせたな。準備ができたから、行くぞ」
アルフレッドに連れられて来たのは、マクベリー邸の中にある食堂だった。
八人掛けの大きなテーブルに、果物と花が飾られてあり、居間のシンプルさとはかけ離れた豪華さだ。
それに、食事という予想は当たっていたが、楽師がいることは予想外だった。