なにもないのを保つだけなら誰でもできそうな気がして、特に優秀でなくてもいいように思う。
やっぱりアルフレッドの感覚はよく分からない。
すっきりしている団長部屋は、すでに快適だということだろうか?
首を捻っているシルディーヌの元に、侍女がお茶を運んできた。
「お待たせしております。どうぞ、お茶をお召し上がりくださいませ」
落ち着いた雰囲気の侍女は、執事と同じくらいの年齢に見える。
目じりにしわを寄せた柔らかい笑顔は、とても話しかけやすい雰囲気だ。
「あの、今から、なにが始まるんですか?」
「まあ!お嬢さま。なにも聞いていらっしゃらないんですか?」
「ええ、なにも。アルフに尋ねたけれど、教えてくれなかったわ。お邸に来ることも内緒だったの。びっくりしたわ」
シルディーヌが唇を尖らせてみせると、目を丸くしていた侍女は、くすっと笑いを零した。
「それならば、私からは申し上げることができませんわ。ですが、これだけは言えます。旦那さまが内緒になさっていたのは、きっと、怖いからだと思います」
「……怖いって、私のことが?」
「ええ、もちろん。先ほど旦那さまのお顔を拝見して、確信いたしましたの」
「アルフはどんな顔をしていたのかしら?今日はほんの少しだけ、柔らかい表情をしたときもあったけれど、基本的にいつもとあまり変わらなかったわ」