本当にいいところに邸を建てたのだと感心していると、次第に馬車の速度が遅くなっていき、やがてゆっくりと停まった。

窓の外には大きな邸があり、夕日が外壁を綺麗なオレンジ色に染めている。

その邸の屋根は灰色で……。


「ここは、アルフのお邸?」


アルフレッドに手を引かれてシルディーヌが降り立つと、白髪交じりの上品な男性が丁寧に頭を下げた。


「おかえりなさいませ」

「命じた通り、支度はできているか?」

「はい、勿論でございます」


男性は満面の笑みでシルディーヌを見、直後に何故かちょっと慌てたような素振りを見せる。

目に見えてそわそわしだし、心ここにあらずといった感じになった。


「ああ、そうだ、すみません。旦那さま、少々お待ちくだされ。とりあえず、お嬢さまは居間にご案内いたしましょう! ささどうぞ!」



居間は、黒龍殿の団長部屋が二つくらい余裕で入りそうなほどに広かった。

中央付近にあるソファには、馬車の中にあったのと同じ花柄のクッションがある。

多分、出がけにここから持ち出したのだろう。

シルディーヌはひとりで居間に残され、手持無沙汰な落ち着かない気分でソファに腰かけた。

アルフレッドは邸に入るなり、「着替えてくる」と言って自室に行ってしまった。

白髪交じりの男性は執事らしく、シルディーヌを居間へ入れると「大変だ! 本当にお嬢さんをお連れになった!!」とうれしそうに言って、小走りでどこかへ行ってしまった。