ちょっと焦りを覚えつつ訊ねるが、アルフレッドは答えない。
それに何故かちょっと困惑したような顔をしており、訊いてはいけないことだったのかと察する。
困った顔をするなんてとても珍しいことで、問い詰めるのは不憫かもしれない。
いつもの気迫満点な顔が、今はちょっと柔らかいというか、ともすれば照れているようにも見える。
シルディーヌがじっと見つめていると、アルフレッドはぼそっと言った。
「……近いから、あっという間に着く」
「え?」
訊き返すがアルフレッドは明確なことは言わず、結局行き先は謎のまま馬車は走り、商店街の賑わいから遠ざかる。
間もなく窓の外の景色は、緑多いなかにぽつりぽつりと大きな邸宅が建つものに変わっていった。
どのお邸も立派な門があり、そのはるか奥の方に邸がある。
パッと見た感じでは、サンクスレッドにあるシルディーヌの家よりも大きな邸ばかりだ。
「すごいわ。この辺りは、立派な邸ばかりなのね!」
「ここらにあるのは、貴族院の連中の邸だな」
「あ! もしかして、アルフのお邸もこの辺りにあるの?」
「ああ、ある。俺の邸は、あそこだぞ」
アルフレッドが示す方に、こんもりと茂る緑の中に灰色の屋根が垣間見えた。
以前アルフレッドが言っていた通り、ここなら王宮にも商店街にも近い。