アルフレッドは、隣の席に身を沈めながら馭者に出発を命じたあと、長い脚を組んでくつろいだ。
その端正な横顔を見つめていると、ふとシルディーヌの方を向いて、不機嫌そうに眉根を寄せた。
そんな表情をしなければ、もっと好感度があがるのだが。
「なんだ、言いたいことがあるなら、さっさと言え」
「あ、これ、とても座り心地がよくて、かわいいクッションだわ。いつもは、アルフが使っているの?この馬車も毎日使っているんでしょう?」
「俺は、王宮へは馬で通ってるから、普段は使っていない……それは、お前が尻が痛いと言って泣きベソをかくと面倒だから、置いたんだ。花柄なのは……たまたまだ」
アルフレッドはぶっきらぼうに答えるが、シルディーヌへの気遣いがみえる。
イジワルでドSなアルフレッドが……カタブツで、綺麗なご令嬢にアプローチされても眉ひとつ動かさず、『カエルの方が百倍マシだ』と言っちゃう人が、シルディーヌのために?
そう考えると、なんとなく、馬車の中が甘い空気になっている気さえしてくる。
いったいどこに連れて行ってくれるのだろうかと、少しの期待が胸をよぎった。
「え、でも待って、アルフ。お尻が痛くなるなんて、今からそんなに遠くまで行くの??」
時刻はもう夕暮れになる。
明日は普通に仕事があるから、あまりに夜遅くなると困ってしまう。
それは、アルフレッドも一緒だろうに。